ブッダ物語41
全能の神となったシッダールタは、無の世界にひとつの思いを発しました。いや、想いを発したというよりも無そのものがひとつの想い、つまり“神の心”そのものなのです。それは、自己の中にある無限宇宙に住む生きとし生けるすべての者達に、自分と同じ最大の悟りを得させてあげたいという想いです。その想いは「光あれ」という言葉となってひとつの時空を形成し、その中にはまたたく間におびただしい数の星雲、銀河、惑星が誕生していきます。宇宙誕生です。仏となった者は、その神通力によって宇宙を誕生させることができます。やがて時間の経過とともにいくつかの惑星の上に生命が生まれ、その生命が知性を持ち、社会を営む段階に達するのをみると、仏は自らをその世界へと転生させました。そこは自然にあふれ、美しい海、川、山々が存在する調和に満ちた世界でした。
ブッダ物語42
しかし、そこはなんと人間ではなく魚の世界。
生物進化の途上で、魚がエラ呼吸を肺呼吸に変え、地表へ登り始めたのを皮切りに他種を怒濤し、さらにヒレを足へと進化させ、陸上生活をおくる魚の王国でした。そして、すでにいくつかの文明を創っては崩壊させ、再び温暖な大陸の肥沃な大河の流域に何度目かの新しい文明を発祥させ、農耕生活を営み始めた段階です。
そして、いくつかの小国に分裂した国のひとつ、人口5万人程度の国に仏は転生してみました。拝火教、極端な無殺傷教と、我々猿が進化した文明とほぼ同じように、すでに様々な宗教が国ごとに信仰されている状況です。そんななか、とある国の魚の王族の家系へと仏は降りていきました。
ブッダ物語43
そして、そこでもまた若き日より瞑想に目覚め、幾人かの霊的導師につき、人生なかばにおいて見事に悟りを開くことに成功します。そしてやはり無と一体となり、ビッグバンを自由自在に起こし、様々な世界を創造する大悟を得、再び地上へと戻り、弟子を取り、教えを広め、多くの国々の王様達までも帰依させ、寿命の終了とともに涅槃へと戻っていきました。その後その教えは世界中に広まり、三千年のち魚族の文明が科学の力によってこの宇宙創造の秘密に手が届こうとした時、再び仏はその世界へと転生しました。そして、かつて自らがその世界に説いた教えがその世界の科学の究極の答えでもあること、そして宗教と科学とがひとつであること、この物質世界とは仏がその内に生み出した心の世界のひとつであることを説き明かすと、再び空の世界へと戻っていったのでした。その後、魚の世界では心の探究が科学となり、瞑想が世界中で励行され、仏が残した言葉を綴った聖典が科学の基本として研究され、世の中から争いがなくなり、次元が1段階上昇し、ひとつの宗教、ひとつの神のもと、平和な世界が実現されていきました。
ブッダ物語44
涅槃へ戻ったのちも仏は再び慈悲の念を発し、自己の内にある様々な世界へと降りたっていきました。時間、空間、時代、異なる支配種族、文明設定、仏はありとあらゆる創造世界にその魂を転生させ、この宇宙の構造と悟りのプロセスについてをその世界の生命達へと語ります。アシュク如来、ネントウ仏、薬師如来に大通智勝仏、様々な名と姿に自らを変え、その世界、その文明に応じて、各如来は適切な言葉で宇宙の神秘を説き明かします。インドに伝わるカルキ伝説というものがあります。それはひとりの神が人間はおろか、魚や獅子や亀や象の世界にまでも降り立って、同じ動物の姿に自らを化身させ、あらゆる生命に教えを説くという話です。そして様々な姿に自らを変えた神の化身のひとつが、この世界に降りたブッダだといわれています。さらに仏は、物質世界のみならず霊界の神々に対しても教えを説き、彼の弟子となった人々は皆、その後何度も転生する果てにブッダの教えを悟りきり、それぞれが如来になっていきました。そしてそれぞれの如来がさらに各世界に教えを説き、衆生はそれに帰依し、やがてすべての人々がブッダとなり、最後にこの全宇宙そのものが空で満たされ、この宇宙は完成を得たのです。
これが第4段階・神意識における全創造世界の完成なのです。如来に達した者だけができる神の奥義です。
ブッダ物語45
「はーっ。」
深く禅定に浸っていたシッダールタは目を開け、深い吐息をひとつゆっくり放ちました。そこはネーランジャ河のほとり、ガヤーにある巨大な菩提樹の下、まぎれもなく人間の世界でした。悟りを開いたのち、シッダールタはしばらくの間こうしていくつもの世界へと生まれ変わり、全宇宙を何度も完全な無に帰し、何度も涅槃を得ていたのです。ブッダは想います。「さて、今再びこの人間の世界においても教えを説き、弟子を取り、更なるこの宇宙を無に帰す努力をすべきかどうか。
いやいや、そんな作業を再び繰り返すことなく、すぐに涅槃に戻ってしまったほうがいいのではないか。」すると、どこからともなくひとつの声が聞こえてきました。
ブッダ物語46
それはこの人間界に属する、霊界第6次元からやってきたインドラ神の声でした。「仏よ、どうか教えを説きたまえ。仏よ、この世界の人々にも光明を与えたまえ。」インドラ神は静かにブッダの傍らに降り立つと、いとおしげな表情でブッダを見つめました。ブッダは静かに答えます。「インドラ神よ。余がシッダールタとして生を受けたこの世界はすでに真理朽ち果て、皆むさぼり合い、互いに排他し合い、己の欲望のみを満たそうと、日夜淫行に荒れ狂う餓鬼、畜生の巣窟である。
そんな世界に教えを説いたとて、何になろう。余の教えは深淵でかつ広大な宇宙の体系である。こんなことを理解できる者が果たしてこの世界にいるだろうか。」
ブッダ物語47
「如来よ。世をあまねく照らす者よ。この世界の衆生のほとんどは確かに暗愚で、無知蒙昧かつ欲にまみえた者達ばかりがその大半を占めています。しかし、そんな汚辱の世界の中にもほんのわずかではありますが、宇宙の真理を学ぼうと日夜努力している者達がいます。その中から、たとえ今生如来の言葉を理解できなくとも、あなたの教えを後生身につけ、幾重にも生まれ変わりを繰り返すうちに、必ずこの宇宙誕生の秘密を理解し、あなたと同じ如来になる者も出てきましょう。
何よりあなた自身がそうではありませんか。」インドラ神は言いました。
ブッダ物語48
仏はしばらく沈黙し、思案します。かつて自らが真実の教えを求め、様々な世界を転生しさまよっていた時代、そしてその中で偶然にも出会った如来達によって、今この人生において自らも仏となれた縁起についてを。そして「さもありなん。」とインドラ神の言葉に納得すると、その求めに応じ、この世界に教えを説くべく決心を固めました。
ブッダ物語49
「余が今生この仏の悟りを得られたのも、かつて私と同じようにいずれかの物質世界に降り立ち、苦労の末、悟りを開いた如来がその慈悲の心によって、自らの生まれた世界に教えを説いたからに違いない。余もその縁によって今こうして世を照らす仏と成り得た。私も平行する世界に住みたもう慈悲深き如来として、今この世界に教えを説きたもう。」インドラ神はそれを聞くと、歓喜とともにあらゆる宇宙へとその喜びを伝えました。そして如来は、ゆっくりとそこから立ち上がると、いよいよ真理の教えを説くべく、その足を前に進めるのでした。
《ブッダ物語 第1部 完》 |